上野千鶴子『家父長制と資本制』 (1990)
本書は,著者の理論的支柱を示す主著.1986~88年に『思想の科学』誌に連載されたものに,大幅に手を入れ,1990年10月,小社から刊行された.そして,連載中も単行本が出てからも,大論争を呼び起こしたのだ.
著者は,「女性の抑圧を解明するフェミニズムの解放理論には,次の三つがあり,また三つしかない」と,冒頭で言い切る.それは,
1 社会主義婦人解放論
3 マルクス主義フェミニズム
である.
その上で,労働者階級が勝利し階級支配を廃絶すれば女性も解放されるという「社会主義婦人解放論」を厳しく批判,また家族の中の性支配に抗議の声を上げた「ラディカル・フェミニズム」の限界も示す.そして両者が問題とする「資本制」と「家父長制」,つまりは「市場」と「家族」とが重なり合った構造こそが,近代産業社会に固有の女性差別の根源であることを鋭く指摘した.本書は,マルクス主義フェミニズムという新たな立場から,理論と分析の両面において,近代産業社会にグサリとメスを入れた画期的な本だったのだ.
当然,社会主義理論により女性解放をめざす立場や,自由主義的な立場から女性解放を考える立場からは,厳しい反論が寄せられた.そのことは,本書の中でも,新たに加えられた自著解題でも触れられている.
しかし,近代産業社会において,なぜ女性は労働市場から締め出され,出産・育児・家事・介護・看取りにかかわる再生産労働を無償で負わされているのか,という問いは,この本により一つの解答を得ることになった.そしてその後の多くの議論やフェミニズムの理論的発展が,いま,例えば介護を社会で担う介護保険につながる潮流を生んでいくと思えば,学問とは何と刺激的な営みなのだろうと思わずにはいられない.
ART I 理論篇
第二章 フェミニストのマルクス主義批判
第三章 家事労働論争
第四章 家父長制の物質的基盤
第五章 再生産様式の理論
第六章 再生産の政治
第七章 家父長制と資本制の二元論
補論 批判に応えて
PART II 分析篇
第九章 家父長制と資本制 第二期
第十章 家父長制と資本制 第三期
第十一章 家族の再編 I
第十二章 家族の再編 II
第十三章 結び――フェミニスト・オルターナティヴを求めて
付論 脱工業化とジェンダーの再構成